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アウトロー

03 08, 2011 | 遊び言

4
 ちょっと理屈っぽい女子高生が自殺する理由とはなんだろうか。
 斉藤有希が電車の迫るホームから吸い込まれるようにして落ちていった後日、彼女の同級の友人は担任教師にユキは悩んでいたようだったと語った。
 ―――生きる意味が見つからない。
 そうもらしていたと。
 生きる意味を得られない人間は自殺するのだろうか。いや、そうじゃない。生きる意味はなんですか、なんて尋ねられて答えられる人間がどれだけいるだろうか。ほとんどの人間はそんなもの持ってない。自殺する奴は数多いるが、生きている人間はそれより多い。
 そうだ。自殺する奴とそうじゃない奴の違い、それは死ぬか死なないかだ。
 生きるという選択。死ぬという選択。
 しかし、奇妙なことだ。生きる意味を探るというのは死への否定的な感情の表れだ。どうして生きる意味が見つからないと悩む人間が死ぬのだろうか。理性なんてものは思うほど信頼に足る代物ではない。感情的な何かによって方向付けされたあとになってから、もっともらしい理屈をくっつけるだけだ。生きたいから生きる理由を考えるのだ。死にたくないから死なない理由を考えるのだ。そんなもの必要だとは僕は思わないのだが。
 なんにせよ、これは彼女の選択だ。
 死ぬという選択。
 その結果として、死んだ。それだけのことだ。
 悩みが始まるのは現実と理想との摩擦による。
 欲望にかなう現実を探す行為。新しい世界のとらえ方を模索する行為。自分が納得できるまで。これを哲学と呼ぶ人々もいる。これこそ命をかけた哲学だと。生き辛い現実への闘争。生き辛い世界からの逃走。
 推測だが、この闘争(逃走)に疲れ、あきらめたとき、人は死ぬのだろう。行動には移さなかったものの、僕も何度か死にたくなったことがある。
 理想に憑かれる子供。
 悩むことと考えることは違う。
 悩みすぎる人間に共通しているように思えるのは現実をまっすぐ見ようとしていないところだ。どこかで甘えている。
 わがままな子供。
 世界はあるようにある。また、あるようにしかないのだ。
 何を選択するのか、それは自由だ。そして、その選択に応じた結果が返ってくる。
 好きなように選べばいい。ただし、人生については誰も確かな保証などしてくれない。 

 ユキにとって「意味」という言葉がどんなものを表していたのか、それを尋ねることはもうかなわない。
 最後に僕の部屋で話し合ったとき、僕は彼女の言う「意味」という言葉がわからないと言った。しばらく彼女は沈黙し、沈黙した。
 言葉を言葉で説明するというのはどこか滑稽な作業だ。しかし、その意味を掴めないままでは議論なんてろくに成り立たない。似たような問題意識を持っていれば大抵は少しの説明があれば納得するものだ。
 だけれども、このときユキは考える風であったがそれ以上は話さなかった。沈黙のあと他愛ない会話をし、帰ると言った。考えるうち何か思い至ったとでもいうように。
 彼女が死んだのは次の日の朝のことだった。
 知らせを聞いたとき、それほど驚かなかった。どこかでわかっていたのかもしれない。そんな雰囲気を感じ取っていたような気がする。
 勤めて相談に乗ろうだとかしたわけじゃないが、僕は彼女の話を聞いたし、理解しようともした。なんの罪責感も負ってはいない。そもそも死を悪いものだなんて考えてもいない。彼女は死を選んだ。その選択に良いも悪いもない。ユキは明らかな間違いを犯すほど愚かな人間ではなかった。

 ユキの通夜はたくさんの後悔の息が満たすなか、粛々と行われた。
 祖父のときとはずいぶん違っていた。
 死とはいつも唐突なものであるように感じるが、今回は殊更そう思う人が多いに違いない。どうしてもっと親身に話を聴いてやらなかったのか、彼女の両親も友人たちも今頃そんなふうに自分を責めているのかもしれない。 ユキの轢死体は修復が困難なほどに、痛んでいた。落ちどころが悪かった。なので結局、昨日送って行ったときが彼女の顔を見た最後となった。
 彼女は僕には過ぎて、可愛らしかった。友人たちは不思議がっていたが話の合う相手をと探せば彼女の選択肢はかなり限られていたはずだ。
 けれど、僕は彼女の見込み違いだったのかもしれない。話はちゃんと噛み合っていただろうか。彼女はどう思っていたのか、はっきりと聞いておきたかったが、ユキはもうこの世にはいない。
 いないのに、「まだあのひとが生きているようで」なんてありがちな台詞がぴたりとはまる。少し可笑しくなってしまう。不謹慎とは思わない。なにせまだ生きているような気さえしているのだから、不思議なことなどない。当たり前だ。昨日まで生きていたのに突然、死にましたなんて。

 焼香。
 線香の薫りは、死という現実を体に馴染ませていくようだった。人工的な死臭。
 この儀式によって死という何気ない現象に人間的な意味を与えていくのだ。それは、新たな一歩を踏み出すための準備、らしい。どこかにそんなことが書かれていた。

 皆、ユキの両親に挨拶してから順に部屋を出ていく。ご両親は案外はっきりとしていた。どうしようもなく泣き崩れたりだとか、そんなことはなかった。だけれど誰もかけるべき言葉などなく、頭を下げるくらいだ。ありがちな辞令を述べることも憚られる雰囲気があった。僕も同じように頭を下げた。そして横を通りぬけるとき、彼女の父親に肩を叩かれた。
 何度か挨拶したことがあった。高校生だし、テレビみたいなかしこまった「挨拶」などではなかったわけだが、ユキと親しかったのは知っていたはずだ。どういう意味があったのかはわからない。ただ、呼びとめたわけではないというのはわかった。すぐに正面に向き直り再び参列者の処理にとりかかったからだ。
 部屋をでて、深呼吸をしてから階段を下りた。
 張りぼてにせよ豪奢を装っていた二階とは対照的にちゃちで事務所みたいなエントランスにさしかかると後ろから袖を引っ張られた。 ユキの弟の弘樹君だ。小学五年生で、ユキに似た利発そうな顔をしている。
 ユキの家へ行った時はよく一緒に遊んだものだ。小学五年生なら友達と騒いでいるものだと思っていたが、友達が少ないのかもしれない。
 彼は何も言わず喫煙室横の長椅子に案内した。よく区の体育館や図書館に置いてあるような、背もたれのない普通の椅子だった。あたりまえだが、やはり死とは日常的なものなのだ。
 並んで座った。
 しばらくの沈黙が続くあいだにユキのことを思い出していた。そういえば、抱きしめたことすらない。ただ、対話をするだけだった。いちゃつきもしない張りぼてのカップル。
 「どうして死んじゃったんだと思う?」
 弘樹君が問う。泣いていない。いつも通りだ。きっと死んだ気がしないのだ。
 「さぁ、どうしてかな。」
 と僕は答える。彼女が持っていたであろう生のけだるさを僕もまた感じている。だから、ただなんとなく死んだんじゃないかと思っていたわけだが、断言はできなかった。
 再び沈黙が流れた。
 「生きていて欲しかった?」
 弘樹君がまた問う。声がわずかに震えているのを聞きとった。
 僕は彼女に生きていて欲しかったのだろうか。そんなこと、考えてなかった。
 彼女は死んだ。それだけだと思っていた。でも、そうじゃない。
 そうか、僕は彼女に生きていて欲しかったのか。どうして気付かなかったんだろう。どうしてそう言ってやれなかったんだろう。
 もう彼女には会えないんだ。会いたくても一生、会えないんだ。
 「生きていて欲しかったに決まってるじゃないか。」
 僕の声は擦れている。
 もう一度会いたい。話がしたい。抱きしめてみたい。
 さっきまでの冷静さはどこかへ消えていた。生きていて欲しかったから、死んだなんて思えなかったんだ。
 今まで感情を閉じ込めていた堅い殻が爆ぜて、中身がどろどろと流れ出すような感じがした。
 新たな現実が立ち現われた。
 もう二度と会えない現実。彼女のいない世界。
 人間の認識というのはこうも身勝手なものなのか。
 喉の奥に違和感を覚える。強く押されるような、懐かしい感覚。幼いころ泣きわめく前に、息ができなくなる、あの感覚だった。
 涙が溢れた。
 ぼろぼろと、こんなふうに涙が出るなんてほんとうに久しぶりだ。
 すぐ隣で弘樹君の鼻をすする音が聞こえる。
 ずいぶん長いあいだ、二人で泣いていた。

受験前に書いた小説。
ミクシでひっそり公開していたのだけれど、気まぐれによりブログに昇格。
小説書いたの二回目。
一回目は結構まえに書いて、一般公開していない。人に宛てて書いた。
比べると、ちょっとレベルは上がったかな。
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- Comments
4 Comments

お久しぶりです。私のこと覚えているでしょうか;^^
私は今はもうブログをやめてしまったんですが。

このブログは前と変わらず、よく読ませてもらっています^^

今回のこの記事の、この小説。
泣きそうになりました。

最初は小説だと思わず、てっきり
R.ogawaさんの実話を話しているのだと思っていました。

それくらい現実味がある書き方だと感じました。

これからも愛読させていただきます(*^_^*)

by みかん。 | 03 09, 2011 - URL [ edit ]

>>みかん。さん
お久しぶりです。
憶えてますよ~。

ご愛読いただきありがとうございます。嬉しいです。
これからはたまに小説も書いてみようと思っています。

これからもよろしくお願いします!

by R.ogawa | 03 09, 2011 - URL [ edit ]

ああもう時間が無い又来週だああお茶もセットしよ~・・

by | 11 24, 2011 - URL [ edit ]

返信>>tさん
忙しそうですね。そんななか読んで下さるとはうれしい限りです。

by R.ogawa | 01 03, 2012 - URL [ edit ]

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